リチャード・E・シトーウィック「共感覚者の驚くべき日常」

たしか二年ほど前に話題になった本と記憶している。
いまさらながらに脳ブームが到来で、脳の本が面白いよ、面白くてたまらないよ、という感じ。中毒です。

本書を手に取ったのは、V・S・ラマチャンドラン「脳のなかの幽霊、ふたたび」 - モナドの方へで、共感覚が取り上げられていたからだ。
当時まるで研究対象とされていなかった共感覚。知人がその能力を持っているとわかることから始まる。バシバシ直球で語るラマチャンドランに比べると、やや余談が多い。単純に本という意味ではよいのだが、もっと共感覚の核心にズバッと切り込んでもらったほうがありがたかった。なんせ肝心の共感覚を確かめる実験に入るのが100ページを超えてからなのだ。

共感覚を研究するにあたって著者がぶつかる問題が、共感覚が主観的な体験であるということだ。音を聞いたら色が見える、そんなこと他人に伝えられるわけがない。そういった主観的体験を研究していくうちに、著者は近代科学の合理性論理に疑問を感じ始める。すなわち人間は情動の生き物なのだと。その流れは後半のエッセイにもつながってゆく。

後半は、コンピュータには再現できない脳の性質、すなわち感情についてのエッセイである。感情が実は人間の知性に重要な影響を与えているというのが最近の学説らしい。本書では共感覚という主観的な現象も大いに創造性に関わっているらしいということが示唆されている。

また宗教の語源に関して書いてあったのでメモ的な意味で引用しておく。

religion(宗教)という言葉はサンスクリット語のre ligioからきている。これは「うしろとつながるもの」という意味で、もともとは物質や一時的なものごとを超え、数々の相反物を超えて、言葉では表現できない超越状態に入ることを指していた。

なるほどね。

共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人
リチャード・E. シトーウィック Richard E. Cytowic 山下 篤子
草思社 (2002/04)
ISBN:4794211279