茂木健一郎「生きて死ぬ私」

生と死をテーマにしたエッセイ集である。「脳とクオリア」をはじめとするいわゆる科学書とは違い、あえて一人称でかかれた私秘的な本でもある。
科学は客観的に記述されなければならない。しかしどんなに客観的であっても、それは主観を隠蔽しているだけだったりする。
絶対的に真理であると思われる三段論法を考えてみよう。「AならばB」と「BならばC」が成り立てば、「AならばC」が成り立つ。これは論理的で科学的な記述だが、そこには論理学を信じている私という記述が隠蔽されている。
本書は生と死という真の意味で共有しがたい個人的なものをテーマにしているためか、茂木健一郎は私を隠そうとはしない。積極的に一人称的な書き方をしている。
臨死体験幽体離脱、宗教など、科学者が公に取り扱うのはヤバイような内容にも触れている。茂木健一郎が科学者として、いや人間として真摯であるからこそ書けた本だと言えるだろう。

この本は絶版だが、全文が公開されている。
http://www.qualia-manifesto.com/ikiteshinu.html