「推理小説の詩学」
ハワード・ヘイクラフト編「推理小説の美学」 - モナドの方への続編にあたる本。図書館で借りてきた、バリバリの絶版だ。
「推理小説の美学」同様、今日的な話題は少ないが、面白いのもいくつかある。
さて期待していたマージョリー・ホープ・ニコルソンの「教授と探偵」は、文学部の教授がミステリを読むことについての話題。確かに論旨は曖昧というか、大したことはない。
しかし、ニコルソン一人だけ妙に凝った文体であるため、単純に読んでいて面白かった。俺はヒストリー・オブ・アイデアズだ!というミーハーな人は眼を通しておいても損はないだろう。
またW・H・ライト(ヴァン・ダイン)がガチガチの原理主義者で、ミステリはパズルだ!と言い切っているのに対し、ドロシー・L・セイヤーズが文学的可能性について論じている。前回に引き続き、またもセイヤーズいいこと言うね。
おなじみの「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」なども載っている。このへんは箸休めという感じ。
もうひとつ面白かったのが、ダシール・ハメットの「私立探偵の思い出」だ。彼が私立探偵をやっていた頃を振り返っての回想メモである。ふたつばかり引用してみよう。
2.
私のつけていたある男が、日曜の午後、田舎へ散歩に行き、すっかり方向を見失った。私は彼に市に戻る道を教えてやる羽目になった。8.
私はあるとき、あやまって偽証罪で起訴され、逮捕を免れるため偽証しなければならなかった。
こんな感じで、短いながらもアイロニーに富んだ断章が29個のっている。これ本当に全部実話なんですか?と驚かされるものばかりだ。もしかすると、これが一番面白かったかもしれない。
最後に読んでいて気づいたこと。古い論考集にしては珍しく、16人中、4人も女性がいる。ミステリは批評でも早くから女性が活躍していたんですね。