読書

小林泰三「臓物大展覧会」

小林泰三の得意とするある種のテイストにニヤリとさせられる短編集。 タイトルと表紙から想像されるようなグロくてホラーな感じというのはほとんど無し。むしろ論理的な展開とあざやかなオチが目立つ。個人的にデビュー当初から感じていた星新一っぽい風味が…

ルネッサンス吉田「茜新地花屋散華」

一部で大人気のルネッサンス吉田の初単行本。 マンガの感想はあまり書くつもりはなかったのだが、本書に関しては一言いっておかないといけない感じがした。というのも端的に開高、埴谷という登場人物名からも明らかなように、その引用される哲学、文学の数々…

「ユリイカ2009年3月号 特集=諸星大二郎」

言わずとしれた諸星大二郎の特集号……と言いたい所なんだけれども最近の若者は知らないらしい。文学で言えばカフカやボルヘスのようなことをやっていると言っても過言ではない諸星大二郎を知らないなんてもったいなすぎる!やはり自分が好きな作品の評が気に…

谷川渥「バロックの本箱」

本書の表紙にあるように、ブンダーカーマーとしてのキャビネットに詰められた博物学的品々を開陳するかのような、バラエティに富んだ作品集。 ドゥルーズの「襞」を中心に据えたバロック論に始まり、古今東西を自在に行き来しながら、批評という物語に辛口に…

伊藤計劃「ハーモニー」

生体情報のすべてが管理された社会でおこる事件と、巨大なパラダイムシフトの物語。 一読、問いとしては最高に面白い、しかしストーリー&オチはやや不満であった。まず読んでいて気になったのがetmlで、この記法が気になって気になってなかなか読み進めなか…

巽孝之編「この不思議な地球で」

不思議な世界観、奇妙な設定、センス・オブ・ワンダーを売りにするSF短編集。 物語の巧みさと言うよりは、世界設計の妙を楽しむ短編ばかりだ。 ウィリアム・ギブスン「スキナーの部屋」 ブルース・スターリング「われらが神経チェルノブイリ」 パット・マ…

レーモン・クノー「あなたまかせのお話」

レーモン・クノーは有名でありながらも、その作品が正当に読まれていない作家であると思う。そういう意味では知られざる作家の未訳短編集ということにもなるだろう。 クノーは保守的な部分と前衛的な部分を両方持っており、文学的でありながらもユーモアのセ…

円城塔「オブ・ザ・ベースボール」

表題作の方はそれほど感心しなかったんだけど「つぎの著者につづく」は自分の関心領域と9割方かぶっていて吹いた。 ボルヘスの「ドンキホーテの作者、ピエール・メナール」をメインテーマとしておきつつも、作風としてはジョルジュ・ペレックに近い。過剰な…

マルグリット・ユルスナール「ピラネージの黒い脳髄」

ピラネージの「幻想の牢獄」シリーズ、あの恐ろしい地下牢獄はいかなる所から生まれてきた発想なのだろうか……それを歴史を追いながら突き止めてゆくのが本書である。 結論から言えば、それはタイトルの通り、ピラネージの黒い脳髄にある。悠久の昔から人類が…

「ユリイカ 増刊号 総特集=初音ミク」

ソワカちゃん特集ということでダッシュして買ってきましたよ! あれ?誰だろ、この表紙のソワカちゃんみたいなの……とまあ冗談はともかくとして、この初音ミク特集、非常に面白い。まず執筆陣の意見を総合すると、初音ミクは存在しないということだ。 ミクの…

T・R・ピアソン「甘美なる来世へ」

トリストラム・シャンディの脱線、南部ゴシックのストーリー、meets ポストモダン糸柳文体。 一行目からして、これだ。頭がくらくらする。 それは私たちが禿のジーターを失くした夏だったが禿のジーターはジーターといってももはや大半ジーターではなく大半…

はやみねかおる「機巧館のかぞえ唄」

はやみねかおるの本を読んだのは初めてなので、通常の構成がよくわかってないんだけど、1部2部は現実と夢が区別がつかなくなるという意味で似ているが、3部だけは、まったく毛色の違う話になっている。 もちろん読んだのは「夢の中の失楽」が目当てだ。 タイ…

荒俣宏「想像力の地球旅行」

これぞ荒俣宏!という人に薦めやすい本を探していた。個人的には「理科系の文学誌」が最高傑作だと思っているんだけど、高いし絶版。次点としては、個人的にとてもお世話になった「別世界通信」が文庫化されてるから薦めやすいかなと思ったら、こちらも絶版……

三橋順子「女装と日本人」

神話の時代から現代まで、日本における女装の受容と様相を丹念につづった新書。 筆者自身が常日頃から女装をしている「女装家」であるだけに私小説のような生々しさがありながらも、同時に研究者としての手腕をふるった歴史的資料を背景の読解が併存している…

レッシング「ラオコオン」

wikipedia:ラオコオンとは、神官ラオコオンが蛇に襲われる様を描いたギリシャ彫刻である。ルドルフ・ハウスナーなどもその図像をコラージュ的に使っている。迫力とインパクトのある彫刻だ。レッシングはラオコオン彫刻を中心に、絵画(この場合は彫刻だけど…

米盛裕二「アブダクション」

アブダクションと言っても宇宙人にさらわれるアレではないですハイ。推論のための論理操作のことだ。 三段論法の推論には三種類あり、演繹、帰納、そしてアブダクションだ。簡単に説明すると以下のようになる。 ・演繹法 AならばBである Aである よってBであ…

マイケル・ブラムライン「器官切除」

グロテスクなほどに精密な医術描写が、ある種のアナロジーとなってストーリーを形づくる。奇抜でショッキングな短編集。 作家自身が外科医であるために特に手術の描写は精緻を極める。スプラッターものと誤解されてもおかしくないほどの壮絶さは、読み手を選…

永井均「なぜ意識は実在しないのか」

チャーマーズの「意識する心」の論議を反駁というか批判してゆくかたちで著者なりの解釈を提示する、刺激的な小冊。 基本的にはチャーマーズの問題設定が間違っているという主張で、論理的にチャーマーズの論議をこてんぱんにのしてゆく。 要するに意識の問…

網野善彦「異形の王権」

文献だけでなく絵巻物などを結びつけて語る、異形の日本像。 ヴァールブルク以降、西洋でも起きた流れを導入し、図像学的な手法を一部取り入れているので、読んでいてとてもワクワクさせられた。作者は文献の内容を絵に当てはめただけと謙遜しているが、その…

ハロルド・ブルーム「影響の不安」

ハロルド・ブルームの理論は奇妙だ。 ブルームの理論は一言でいうと「シェイクスピアに与えたT・S・エリオットの影響について考える」ということである。おいおい逆だろ逆!と思ったあなたの精神はまともだ。ブルームの考え方がちょっと異様なのだ。なぜこの…

ヴィリエ・ド・リラダン「残酷物語」

「未来のイヴ」でおなじみ?のリラダンの奇想と皮肉に満ちた短編集。 よんでいて気づいたのは(すぐに気づくべきだったのだが)ポオのスタイルによく似ているということだ。その影響はわざわざ指摘するまではないのだけれども、凝った文体といい奇妙なアイデ…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「闇を讃えて」

ボルヘス第五作目の詩集である。詩集といっても、超短編のようなものまで含んでいて、物語的にも面白いものも多い。もっともこれは訳文だと押韻もリズムも消えてしまうからかもしれないが。闇と鏡の孕む永遠性が、本作品の根底にある。これには迷宮だの書物…

ジョン・バース「旅路の果て」

――ある意味で、ぼく、ジェイコブ・ホーナーだ。 こんな痺れる一節で始まる、アメリカ・ポストモダン文学の名作。文体の格好良さは訳者によるところも大きいのかもしれないが、やはりポストモダンらしいひねくれた鋭さを持っている。内容は個人的にそんなに好…

川又千秋「幻詩狩り」

一篇の詩が世界を変革する。シュルレアリスム文学をネタに使った言語SF。ハードSF的なガジェットはほとんどないので、SFというよりはある種のファンタジーといったほうが的確だろう。シュルレアリスム運動に関わった人たちの不可解な死の謎をからめて物語は…

鈴木謙介「カーニヴァル化する社会」

あまり社会学系は読まないんだけれども、いつもpodcastでLifeを聞いているので、一度くらいはチャーリーの本を読んでみるかと手に取ってみた。比較的わかりやすい文章で、ぐんぐん読ませるし、主張も論理も基本的には納得いくものであった。若手であるという…

イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」

数学書というよりは数学的エッセイ。自然の中に存在するパターンと、アンチパターン(対称性の破れ)をテーマに、難しい論議は一切抜きにした啓蒙書的な感じだろうか。数式とかはまったくでてこず、専門的な論議は巧みなアナロジーで見事に説明している。ま…

中沢新一「はじまりのレーニン」

あらゆる予備知識と先入観を捨てて読んでくださいとの前書きから始まる。もともと予備知識も先入観もなかった自分としては、多少の警戒心だけを持って読むことにした。よく笑うレーニンというのを軸に、序盤こそ歴史的な背景やら思想やらに裏打ちしながら書…

I・A・リチャーズ「実践批評」

ニュークリティシズムの代表選手の一人リチャーズによる、実践的な批評をするための指南書。前半はリチャーズが学生に書かせた無記名の詩の批評であり、後半はその分析になっている。本書で追求されるニュークリティシズムの重要な思想が二つの誤謬説だ。 ひ…

アントナン・アルトー「ヘリオガバルス または戴冠せるアナーキスト」

詩人によって書かれた、放埒なる王子ヘリオガバルスの年代記。 その魔術めいた文章は、もはやタイプライターでもって正確に記述された歴史というのではなく、鵞ペンでもって綴られた呪文のようである。特徴的な一節を取り上げてみよう。 ひろげた二つの腿の…

宮澤淳一「マクルーハンの光景 メディア論がみえる」

いわずとしれたみすず書房の理想の教室シリーズの一冊。このシリーズ良書揃いであるが、本書も入門書としても復習がてらに読むにしてもよくできている。「ホットなメディア」「クールなメディア」や「メディアはメッセージだ」から「メディアはマッサージだ…