読書

まとめて5冊

乾くるみ「スリープ」 ジャンル的にはSFミステリとなるだろうが、サプライズという意味では、これまでの作品の中では一番薄かったように感じた。むしろ楽しむべきはガジェットの妙なディテールや、未来世界の描写だろう。しかし乾くるみだけあって、後半の展…

まとめて8冊

「ブラスト公論」 最初のカラーページを見て、フォント小さい!と思ったら、その後はもっと小さくてビックリした。130ページ程度ではあるが、読み応え的にはその3〜4倍はある。 文字おこしてあるのも編集技術的な意味で興味深いけど、この対談の生を聞いてみ…

ユルギス・バルトルシャイティス「異形のロマネスク」

本書はバルトルシャイティスのパリ大学での博士論文を元に書かれている。 ロマネスク美術における彫刻に見られる異様に変形した図像の謎に迫る論。結論から言ってしまえば、図像が枠組みによって変形され、変形された図像が再び形体を産み出し図像が再生産さ…

サイモン・シン、エツァート・エルンスト「代替医療のトリック」

恐ろしい本である。不治の病や、慢性の持病を抱えてる人は読まない方がよいかも知れない。それを始めに警告しておく。さて本書はいわゆる通常医学でない代替医療が「ほんとうに効くのか?」を科学的に追求した内容だ。俎上に挙げられるのは主に鍼、ホメオパ…

フェリシア・ミラー・フランク「機械仕掛けの歌姫」

19世紀の文学における人造美女に焦点をあてた文学研究書。人造美女の、しかも声に焦点を当てているあたりがキモである。 訳者あとがきにもあるように『イノセンス』や『初音ミク』を有する我国がこれをスルーしてよいわけがない。タイトルからして「どうみて…

「サバト恠異帖」「相対主義の極北」「スラデック言語遊戯短編集」「麗しのオルタンス」「シュルレアリスム絵画と日本」「S-Fマガジン 2010年 05月」

日夏耿之介「サバト恠異帖」 澁澤龍彦がオカルトの師匠と呼ぶ日夏耿之介。そのまさにオカルティズム中心の一冊。日夏自ら「ゴシック・ロマン体」と名付けた、典雅な文体で綴られた文章は、どこを抜き出しても詩のようである。西洋のオカルト研究もさることな…

小松和彦「神隠し―異界からのいざない」

「神隠し」とは何か?その事例をあげ、分類し、それらを民間信仰とつなげつつも具体的な意味づけを試みている。薄いながらも大きな視点を持った本である。まずはいくつかの事例が挙げられ、それらから神隠しを4つのタイプに分類している。 ・失踪者が無事に…

小林泰三「セピア色の凄惨」

大変不快な気分にさせられる連作短編集。 これまでの作品のように、SF的なことも超自然的なことも起きないのにもかかわらず、異様な世界に連れ去られる感覚を得られる。これまでの作品にも感じられたテイストではあるのだけれども、ガジェットに頼っていない…

辻由美「火の女 シャトレ侯爵夫人―18世紀フランス、希代の科学者の生涯」

今でも読まれているフランス語版のニュートン『プリンキピア』の序文にはこうある。 「ふたつの驚異がなされた。ひとつは、ニュートンがこの著作をあらわしたことであり、もうひとつは、ひとりの女性がそれを翻訳し、解明したことである」 これを記したのは…

これまで読んだのをまとめだし part3

ティエリ・グルンステン「線が顔になるとき」 西洋圏の人文科学を使ったマンガ研究。顔が主なテーマになっているのだが、マンガにおいては顔を描き込むほど生の表現から遠ざかるというパラドックスの指摘が興味深い。このあたりは顔の認識とも関わっていそう…

これまで読んだのをまとめだし part2

月曜日に書こうと思ったら、胃腸炎でずっとダウンしておりました。 取り急ぎ書かないと本を片付けられないので、がんばる。 アルバート・ラズロ・バラバシ「新ネットワーク思考」 ある規模のネットワーク構造は、それが人工であるか自然であるかにかかわらず…

これまで読んだのをまとめだし part1

本を読んではいるのだが、全然、感想を書いてないのでまとめて書く。 順番はおおよそ読んだ順です。 トーマス・パヴェル「ペルシャの鏡」 ルーマニアのボルヘス!ライプニッツの哲学をモチーフにした作品などなど。 文章の眩暈感はあるものの、正直わかりに…

ジョルジュ・ペレック「煙滅」

フランス語で最も多く使われるアルファベットのE(うー)をまったく使わず書かれたノベルが、まさかの邦訳! 胸を膨らませてたものの、まさか翻訳されるとは思ってなかったので、心の底から驚かされた。邦訳では、仮名の「ある段」をまるまる使わぬアクロバ…

ルディ・ラッカー「四次元の冒険」

四次元という概念をさまざまな観点から考察してみようという内容。初歩的な平面世界から始まり、最後には理論物理学とからめながら世界の深淵に迫る領域まで拉致される。注釈などもちゃんと読むと雑学も仕入れられるという素晴らしい一冊である。 SF作家らし…

ジョージ・G・スピロ「数をめぐる50のミステリー」

数学雑学小咄を50こつめんこんだ一冊。内容も歴史的な話から最新レベルの話までさまざまだ。頭から通して読んでいると、そのトピックに必要な冗長な記述があったりするが、逆に言うとどこからも読めるように書かれている親切設計になっているということであ…

ロバート・チャールズ・ウィルスン「時間封鎖」

昨年話題となったSFを今更ながら読了。 地球全体が巨大な黒い膜に覆われ、その外の世界は1億倍のスピードで時間が流れている、というシチュエーションから始まる。次々とアイデアが展開されると言うよりは、人間ドラマを交えながらじっくりと。またそのア…

J・G・バラード「クラッシュ」

自動車の多重衝突事故が超スローモーションとして描写され、それが性的なイメージとマッピングされる。ストーリーなどより、その奇妙な照応が緻密な筆致で執拗に描かれることに戦慄するだろう。 SFでもなんでもないストーリーではあるのだが、クラッシュシ…

飯田隆「クリプキ―ことばは意味をもてるか」

手軽に読めるわりに内容の詰まった哲学のエッセンスシリーズの中でも、どちらかというとマイナーな哲学者を扱った一冊。 クリプキのそれもウィトゲンシュタイン解釈にテーマをしぼり、言語や記号の意味についての面白い考察を紹介している。あらゆる言葉は、…

「チャールズ・バベッジ―コンピュータ時代の開拓者」

言わずと知れたコンピュータの先駆者バベッジの伝記と実績を簡単にまとめた本。 読み所は、バベッジの開発していた「階差機関」「解析機関」の解説の部分である。どちらも非常にわかりやすく説明がされており、中学生レベルの数学がわかってれば充分理解でき…

E・A・ポオ「ポオ評論集」

『ポオ詩と詩論』は読んでいたのだけれども、白鯨の新訳などで有名な八木敏雄が訳したと聞いて、復習がてらに「詩作の哲学」「詩の原理」を再読した。内容はアルス・ポエティカ(E・A・ポオ「詩と詩論」) - モナドの方へで書いた通り。 おそらくは後から…

オルダス・ハックスリー「すばらしい新世界」

ちょっとした必要性があって読んだ。まず、世界国家の中心地であるロンドンで、人間の人工孵化の様子が懇切丁寧に説明される。専門用語が乱舞するその冒頭は、まるで映画『攻殻機動隊』やイーガンの『ディアスポラ』を思い起こさせる。 この世界では胎児の自…

レーモン・クノー「青い花」

スゴイ!でも絶版! 夢と歴史(=物語)をテーマにした壮大な実験的な小説である。本書にはオージュ公爵とシドロランという二人の主人公がいる。 シドロランのほうは現代(と言っても1960年代)のパリらしきところで、河船に乗って暮らしている。 一方、オー…

高山宏「かたち三昧」

東京大学出版会の雑誌『UP』に連載分「かたち三昧」に、漱石論を加えた、ページ数は少ないながらもエッセンスが詰まった高山学の見事なベスト盤。高山ファンは必読である。全63回の「かたち三昧」はほとんど職人芸。1章2ページで、連想ゲームのように怒濤の…

ヒュー・ケナー「機械という名の詩神」

テクノロジーが文学にいかなる影響を与えたか? を検証するという著作。 電子機器が発展した今でこそテクノロジーと文学という繋がりは容易に連想できるものの、これが書かれた1987においてはなかなか受け入れられなかったのではないかと予想される。今にな…

ジョルジュ・バタイユ「呪われた部分」

マルセル・モース「贈与論」 - モナドの方への流れで読んだ。 これを経済学の本と言ってしまうと、経済畑の人に怒られてしまうだろう。「過剰とは美である」というウィリアム・ブレイクの引用から始まる本書は、むしろ経済学以上の人間の活動全体を射程に入…

マルセル・モース「贈与論」

レヴィ=ストロースの親族構造理論の霊感源となった古典的名著。 食料、財産、土地、労働、儀式、そして女子供までもが譲渡によって交換対象となりうる、未開社会の奇妙な経済活動を明らかにした本である。隣の部族から何かを譲渡されたらば、それ以上のお返…

凝然「八宗綱要」

とりあえず仏教に関して最低限仕込んでおこうと思って、id:ggincにすすめられたのがこれ。なんだけれども正直、専門用語多すぎ参った。ちゃんと調べながら読むと半年くらいかかりそうなので、とりあえずの読み流し、1/10も理解してない感じだ。 一応、用語解…

伊藤計劃「虐殺器官」

戦闘ものはあまり得意ではないので躊躇していたのだけれども、インタビューで黒沢清のCUREから影響を受けたと書いてあったので、やはり読まねばならないと手に取った。脳の機能が局在していて、その機能を制御できる科学力を得た近未来の物語。そこではナノ…

アラン・ムーア「ウォッチメン」

映画版「ウォッチメン」を見て、これは批評に困ると腕組みしてしまった。褒めるにしても貶すにしても斜めから見るにしても、なんだか言葉にしづらい。とりあえず傑作と称されている原作コミックを読んでみなければと、ちょっと値段にビビリつつも購入した。…

ジェラルド・M・エーデルマン「脳は空より広いか」

ノーベル賞受賞科学者によるクオリアとか、意識とか、いわゆる心脳問題を取り扱った本。 詩的なタイトルでありページ数もそれほどないが、中身はガッツリ理論的なので気軽には読めない。結論からいくと大変示唆に富む内容ではあるのだけれど、自分の理解がと…